大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)494号 判決

論旨は、昭和二〇年一一月二三日現在において、訴外桑名景吾が本件農地を耕作していたのは、使用貸借関係によるものであると主張するのであるが、原判決は、この点について、右訴外人と上告人との間の本件農地に関する賃貸借契約は昭和二一年六月に終了したものと認定しているのであつて、論旨は原審の事実認定を非難するに過ぎない。

同第二点について。

論旨は本件農地に関する賃貸借契約の合意解約は適法且つ正当であるから、昭和二二年法律第二四〇号農地調整法改正法附則三条二項二号の場合に該当するというのである。しかし、原判決は、上告人と訴外桑名の各家族につき農業に従事する者の数及びその耕作反別を認定し、更に、右訴外人は、昭和一〇年頃から本件農地を賃借し来り、本件農地を失うことになればその生活維持の手段を失う危険があることを認定しており、以上の判示事実に基けば本件解約は適法であつても右附則三条二項二号にいわゆる正当になされたものということはできない。それ故論旨は理由がない。

同第三点について。

論旨は、被上告人の本件賃借権設定裁定書には賃借権の内容条件を定めていないから違法であると主張するのであるが、右法文に「回復」なる文字のないことは所論のとおりであるけれども、同条の立法趣旨から言つて、特段の定めをしない限り、さきの賃貸借契約と同じ条件をもつて賃貸借関係を設定する趣旨であることが窺われるから所論条件の記載がないからといつて本件裁定を違法とすべき理由はない。

以上説明のとおり論旨はすべて理由がないから、本件上告を棄却することとし民訴四〇一条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)

上告代理人弁護士田村三吉の上告理由

上告人の本訴請求の要旨は、

上告人は本訴の田一反二十二歩を昭和十年頃より訴外桑名景吾に期間の定めなく賃貸していたが、昭和二十年十月末自作のため同人と賃貸借契約を合意解約し、その返地引渡を受けて翌二十一年度の稲作からこれを自作して来たところ、右桑名は昭和二十二年十二月二十六日より施行の改正農地調整法附則第三条の規定によつて賃借権回復設定の申請をなし、被上告人安芸町農地委員会は之を認めて昭和二十三年六月十一日附で賃借権設定の裁定をしたが、これは農地調整法附則第三条の規定に反する違法の処分であるから、これが取消の判決を求める。

と謂うにあるが、これに対し原判決は上告人の請求を棄却したが、それは次のように法令に違背したものである。

第一点

上告人の「本訴の農地は桑名景吾に賃貸してあつたが、昭和二十年十月末合意解約によつて返地を受け、昭和二十一年度の稲作より自作中であるから、右桑名は農地調整法附則第三条第一項に指定された昭和二十年十一月二十三日現在における賃借人ではないから、同規定に基ずいて賃借権の回復を申請する資格はない者であるに不拘、被上告人がその申請に基ずいて賃借権の回復設定の裁定をしたのは違法の処分である。」との主張に対し、原判決は昭和二十年九月末頃両者間に本訴農地の返還につき合意が成立したことを認めながら、「桑名が其の年(二十年)の麦作をなし、翌二十一年六月同人が麦を刈取つてから上告人が農地の引渡を受けたものであるから、昭和二十年十一月二十三日現在における賃借人は桑名であつたから申請の資格に欠くるところはない。」として上告人の主張を排斥したのである。

然し原判決は、本件賃貸借契約の合意解約が成立したのは昭和二十年九月末頃であることを認めながら、同年十一月二十三日当時、桑名が麦を播付けてあつたのを以て同人が賃借人であつたと認めたのであるが、それは上告人が同人が永らく小作していたのを、上告人の申入によつて快く返地をしたのと、居部落の慣習によつて恩恵的に其の年の麦作を認めたものであつて、もとより小作料は取らず無償であるから、昭和二十年十一月二十三日当時桑名が本農地を耕作していたのは使用貸借関係によるものであつて、同人は賃借人ではなかつたのである。農地調整法附則第三条の規定は昭和二十年十一月二十三日現在における賃借人の請求によつて、其の当時における賃借権の回復をしようとするものであるから、同人の如く賃借権がなくて、単に使用貸借による耕作者に過ぎない者に、賃借権の回復を許すべきでないことは申すまでもないことである。

然るに原判決がこれを認めて上告人の主張を排斥したのは、農地調整法附則第三条中にある賃貸借契約や、賃借権の設定の解釈適用を誤り、かつ判決の理由に齟齬があるから、原判決を破毀せられたい。

第二点

上告人の「本件賃貸借の合意解約は適法かつ正当であつて、附則第三条第二項第二号に該当するから賃借権設定を承認することはできない。」との主張に対し、原判決は、合意解約の適法であることは認めながら、双方の家族関係、耕作能力、耕作面積、生活状態などを比較して、解約は正当ではないと認定して、上告人の主張を排斥した。

然し上告人の耕作面積は本件一反二十二歩を併せて約八反であり、元賃借人桑名の耕作面積は約五反であつて、上告人の方が大部多いようであるが、若し本件賃借権の回復が認められるとすると、上告人の方は七反になり桑名の方は六反になるから、耕作面積の比較は余り重要視するに足らぬものであり、耕作能力は上告人の四名に比し桑名は三名であつて、上告人の方が優れていて本件の農地は桑名に小作させてあつた時よりも、上告人が自作している現在の方が生産を増大して居り、家族は桑名の方が多いので生活状態はどうかと考えられるが、同人は米作の外に製糖業を営んでいて多額の収入があるので、上告人よりも多く納税している(甲第四号証参照)程であるから、本件農地を耕作していない現在でも生活が困難でないというよりも、むしろ上告人よりは裕福な生活をして居り、之に反し上告人は、若し本件の一反二十二歩を再び桑名の方へ小作させねばならぬようになると、上告人の耕作面積は減り、かつ他に現金収入の途の少ない上告人の生活状態は桑名のそれに比べて却つて悪くなるおそれがある。これ等の事実を綜合すると、本件賃貸借の解約は適法であるのみならず正当であるといわねばならぬのに、原判決がこれを正当でないとしたのは、附則第三条第二項第二号の解釈適用を誤り、かつ判決の理由に齟齬があるから、これが破毀を求める。

第三点

上告人の「被上告人のなした本件賃借権設定の裁定書(甲第二号証)には、(イ)賃貸借の期間、(ロ)賃料額及び其の支払方法、(ハ)其の他賃借権の内容条件が全然明示されていないのは違法の裁定である。」との主張に対し、原判決は「裁定書には賃貸借の内容を定めた条項の記載がないけれども、以前に賃借人であつた者に賃借権を回復させることを目的とするものであるから、その裁定に特に賃貸借の契約内容が定められない場合は従前の例に従うもの」であるとして上告人の主張を排斥した。

然し法文には「回復」なる文言はなく、それは以前の賃借人が再び賃貸借を締結することを意味するものであつて、一旦消滅した賃借権を復活回復するものでないことは、附則第三条第一項中に「賃貸借契約を締結することに関し協議を求めることができる。」とあるのを見ても明らかである。されば賃借権設定は、法理上は新賃貸借の締結を命ずる行政処分であるから、須らく其の期間賃料其の他の内容条件を明確にするか、少くとも之を知り得る方法を執らなければならぬのに、本件裁定書(甲第二号証)には、「長野源太郎は昭和二十三年度稲作収穫直後、桑名景吾に該農地を返還し賃借権を設定するを至当と認む。」とあるだけで、賃貸借の内容条件を定めなかつたのは、違法の処分であるのに、原判決がこれを適法の処分であると認めたのは、附則第三条第一項、第三項、第四項の解釈適用を誤つた違法があるから、これが破毀を求める。

以上

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